歯を白く

歯を白くした。

家でできるタイプのホワイトニングで、薬剤を仕込んだマウスピースを歯にかぶせて、あとは寝ちゃえば朝までにじんわり漂白してくれるという感じ。それを2週間、毎晩やる。薬剤がけっこう歯茎にしみる。それは事前に説明を受けてたのでそんなもんなんだろうと無視していたのだけど、終わってみると歯医者さんには「そんなまじめに毎晩やる人はめったにいない、痛いし」とすこし驚かれた。先に言ってよ。

歯医者さんでは、ホワイトニングを始める前と2週間やった後でそれぞれ歯の写真を撮った。正直すこし「それ要るかな?」と思っていた。成果を見比べるときに「過去の自分は好ましくない状態だった」と思ってしまいそうで、それがいやだった。でもそれなりのお金がかかる施術だし、効果はわかりやすいほうが楽しいよねとも思う。実際、前後の写真を見比べたときにはそれなりに高揚した。

急に思い立ってホワイトニングをお願いしたけど、べつに他人に見られることを気にして白くしたわけではなかった。マスクが必須の世の中で、歯を見られる機会はそうそうないし。
他人どころか、もはや自分ですらあまり見ることがなくなってしまった。顔半分を不織布で覆って一日過ごした後、鏡の前でマスクを外して、十何時間かぶりに歯を見る。それが僕の思っていた僕の歯よりもずいぶんと黄色くて、それにとても違和感を覚えた。自分じゃないみたいだった。

自分のすがたを確認する機会が減ったことで、イメージする自分と実際の自分が離れてきてしまった。どうにも気持ちの収まりが悪くて、その距離を調整するための漂白。落ち着いた。